第十一語「坊主丸儲け」後編

前回に続き、坊主丸儲けの話です。今回は具体的な数字を通して話をしたいと思います。

厚生労働省発表の令和3年賃金構造基本統計調査の企業規模10人以上の宗教家(平均年齢46.2歳)の「きまって支給する現金給与額×12ヶ月」と「年間賞与その他特別給与額」の合計は534万6000円でした。宗教家という区分ですから僧侶だけではありませんし、この数字は10人以上の宗教家が在籍をする宗教法人の結果ですので、そのような大規模の宗教法人は収入も多く一般的なお寺と単純に比較はできないかもしれません。

浄土真宗本願寺派が令和3年に同宗派の1万寺超に行った調査(第11回宗勢基本調査中間報告)によると、50%の寺院の年間収入が400万円未満、24%が500万円〜1000万円でした。「お寺の収入=僧侶の年収」ではありませんので、ここからお寺の維持にかかる費用や将来必要となる改修費用等の積み立てなどを引いた場合、上記の534万円はもとより、給与がほとんど出ないという事も珍しくはありません。

私は以前、気の置けない友人達とのお酒の席で年収の話になり、自分について話をすると「世間のイメージとは大違い」「苦労している割に貰っていないんだな」と同情され、嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちになったのを覚えています(私には定期昇給もベースアップもありません)。

「高級車を乗り回し、豪遊する姿は坊主丸儲け」、そういう生活をしている僧侶が一部とは言え存在し、批判の対象となっていることは承知しています。しかし、私は僧侶であるならばそれが自分のあるべき姿かどうかは、教えに照らして本人が感じ気づくことであり、他の僧侶が言うべきことではないと思います。ただ、私のような貧乏性の人間からすると「異次元の話」という感じがありますし、うしろ指をさされようが我が道を行ける程肝が据わっているのは、「ある意味」僧侶としての資質を持っていると言えるのかもしれません。

この手の話になると、ネット上では「坊主丸儲け」の単語が並びます。全てがウソだとは言いませんが、それら話はイメージや思い込みで語られているものや「私の近所のお寺が高級外車に乗ってる」のような、どこのどのお寺の事で発言者は誰かわからない真偽不明なものばかりです。また、どのような意図かわかりませんが、悪意があるものや印象操作をしている記事もあります。実は前回と今回、2回に渡って「坊主丸儲け」の話を書いた趣旨は「世間で思われている程、お坊さんは高給取りではない」という弁明ではなく、不確実なモノに振り回されてしまいがちな私達の危うさを考えるきっかけとなればと思いこのお題を選んだのです。たった数人、あるいは一部分を見てあたかも全体がそうであるかのように思い込むのは真実を見誤ります。「坊主は」「日本人は」「黒人は」「ムスリム(イスラム教徒)は」と、十把一絡げにして主語を大きくしていませんか?

以前、八王子駅前に高層マンションができた時に、芸能人の誰々が買ったという噂があちこちで聞かれました。しかしその後も「あれはウソだった」という声も聞かれず、噂はいつの間に消えてなくなりました。巷にもネット上にも真偽不明の話はたくさんありますが、それらを信じている人は少なくありません。もしかしたら、あなたが信じているその話も本当かどうかはわかりません。信じるに値するような確証はありますか?「テレビ、新聞が言ってたから」という人がいますが、残念ながらマスコミの言うことが全て正しいとは言えません。信用する前にその情報が本物かどうかを自ら調べる習慣を身につけるべきでしょう。世の中には「真実より本物っぽいウソ」がたくさんあるのです。

最後は落語家の故・立川談志さんがタクシーに乗った時に運転手から「アンタたちの仕事は楽でいいよな。俺たちはこんな苦労していくらしかもらえない」と言われた時の返答を紹介してこの話を終わりたいと思います。

「その通りだよ。なんであんたやんないんだい?」

【出典】
令和3年賃金構造基本統計調査 表番号1 (厚生労働省)
第11回宗勢基本調査中間報告 問43(浄土真宗本願寺派)